■ 2001-10-29 掲載 渡辺正清氏の本 ■

注目の本紹介・01-10-29 注目の本紹介・09-05-15  追加

「ヤマト魂」を読む
著者の渡辺正清氏は2002年5月30日午後11時
から放映されたNHK・BS23に出演。
日系人を強制収容したマンザナ収容所の今日的意義として、
9・11事件後、イスラム系市民を強制収容しなかったことが、
アメリカ民主主義の進歩と語った。

写真:テレビ画面から撮影。

著書名:『ヤマト魂』
著者名:渡辺正清(わたなべまさきよ)
発 行:集英社
定 価:1800円

著者紹介:1938年石川県で生まれ神奈川県、愛知県で育つ。 61年、東北大学文学部卒。62年カリフォルニア大学(UCLA)留学、都市 工学専攻。65年ロサンゼルス郡公共事業局勤務、85年郡最優秀職員に 選ばれる。道路課長を勤務、99年退職。75年から現在までカリフォルニア の歴史を背景に日系移民史に関する論文、歴史紀行文をロサンゼルスの 邦人月刊誌、新聞へ定期的に寄稿。91年、マリリン・モンロー、ロバート ・ケネディ、ウイリアム・ホールデンらの検死解剖で知られるトーマス・ ノグチ検視官の解任劇の内幕を描いた『ミッション・ロード』で第10回潮 ノンフィクション賞」を受賞。ノンフィクション作家。
著者と豊田市との関わり。1946年4月、挙母町立南小学校(現豊田市立 根川小)に神奈川県小田原市から転入、50年3月同校卒業。51年7月、 挙母市立西部中学校(現豊田市立朝日丘中)から愛知学芸大学付属中学 に転校。トヨタ自動車三ッ満多社宅で育つ。

著者の渡辺さんから昨年9月11日事件の数日前に電話があった。数日後にアメリカに帰国(彼はアメリカ国籍)する、といっていた。飛行機が飛ばなくなつた期間にぶっかっていた。約1週間後、アメリカから電話があった。
やはり、帰国が遅れた、といっていた。
アメリカからの電話の時、渡辺さんに聞きたかったことは、次のことであった。
事件後のアメリカは、第二次大戦・真珠湾事件直後のような、「民主主義」が停止し、「超憲法・排日の嵐が吹く」、それと同じ状況にあるのではないか、と。しかし、このことを話すと長くなるのでやめた。
今度、来たときに聞くつもりだ。
この本の内容
1:対象となった時代…1941年12月7日から1952年4月17日までの10年余。
2:対象となった人々…主として日系アメリカ人。
人種は日本人で国籍は、
(イ)日本国で在アメリカ(1世)(ロ)国籍はアメリカ(2世)。
(ロ)を二つに分けて
(a)日本育ち・帰米 (b)アメリカ育ち。
3:何があったか…。
(イ)背景に排日感情があった・人種差別。
(ロ)日本が戦争をしかけた・真珠湾奇襲攻撃。
(ハ)日系人すべてをアメリカ合衆国憲法に違反して強制収容所に隔離。
4:日系人社会の中で、おのおのおかれている立場から、厳しい選択と決断
がなされた。
(イ)反米の立場を選択・決断した人々もいた(主として1世と帰米)。
(ロ)アメリカ国籍を選択する以上、強制収容所入り、という不当な
扱いをうけているが、兵役の義務を果たすことをとうして 権利
を主張することを選択・決断した人々。
5:兵役を大きくわけて
(イ)アメリカ陸軍としてヨーロッパ戦線へ派遣された部隊・実戦部隊
。 アメリカ陸軍最大の犠牲者をだしながら数々の戦果をあげた。
(ロ)日本語の読み・書き・話す能力によって、暗号解読、通訳、諜報
活動等を太平洋戦線でおこなった。
6:兵役義務を果たして帰還した元兵士らは、排日法・制度などの撤廃の闘い
の先頭を担い、目的をほぼ果たした(アメリカ政府が日系人を強制収容し
たことに対して謝罪し、賠償するまでには時間がかかったが)。
著者の取材する視点・姿勢
1:対象とした10年を著者は30年かけて取材した。また、文献にあたることは
当然だが、できるだけこの時代に生きた人々の声をじかに聞き、記録した。
また、幾度も現地を訪ね、山や川、砂漠など自然の中に体を置いて、追体
験をこころみている(マンザナ収容所やヨーロッパ戦線址など)。
2:キーワードは《ヤマト魂》。著者は序章で次のように述べている。
…戦場において、日系二世が恥ずかしくない戦いをする精神的な支柱、拠り
所になったのがヤマトダマシイではなかったのか。もちろん、旧日本軍で
使われた「大和魂」とは意を異にするもので、「日本人としての誇れる心」と
いった意味に解するほうが実相に近い。日本人としての誇り…忍耐、勤勉
節約という、こんにちでは色あせてしまった資質こそ、日本民族の生き方
を長く支えてきたのでは、という思いを深くする。
3:丁寧に取材をしている。収容所内では、激しい憎しみや対立があったし、そ
れぞれの選択に対しての対立、葛藤があった。それ故、関係者は語りたく
ないことも多くあったはずだ。固い口をあけさせるには、粘り強い説得と
信頼関係がなければならない。著者は、聞き出せれなかったことは、その
旨を率直に述べている。そして、話したくないことを理解しょうとさえ
している。文献調査、人と会うための準備、アメリカ大陸の広大さ等から、
これだけの本にするのに30年の歳月を費やした密度のある本だ。
読後の感想

これは、わたしの少ない知識と能力不足という「色メガネ」で読んだ感想である。
著者は、旧日本軍で使用された「大和魂]と「ヤマト魂」を区別している。この
旧日本軍が使用した「大和魂」の意味がわたしにはわからない。そこで、著者も
たびたび引用する広辞苑をひらくと、大和魂とは《日本民族固有の精神。勇猛
で潔いのを特性とする》とある。著者のヤマト魂は《日本人としての誇れる心》
としている。脱線するが、わたしには《ヤンキー魂》もよくわからない。魂とか
精神とかは、意味にかなりの幅があり、あいまいな言葉だと思う。本の表題の
『ヤマト魂』は、アメリカの日系人には理解できるのだろうが、現代の日本人
には、理解し難いか誤解されるだろう。
わたしが注目したのは、強制収容所内で反米デモが行われた、ということだ。
…忠誠登録を強制されたことに反感をもつ第四十二区の二世三十五人は管理局
まで行進し、「徴兵局に登録する意志はまったくない。しかし、日本への送還には
いつでも署名する」という意味の抗議文を当局に手渡した(同書149ページ)。
わたしが驚いているのは、このようなデモが可能だったことだ。そして、同じ日系
二世でもまったく違った選択をしたグループもいたこと。
兵役の義務を果たすことを選択したグループの意識は、「日本人として恥ずかしく
ないように戦いなさい」(母親の発言・同書202ページ)の「恥をかくことをおそれる
文化」と「日本人としての誇れる心」とは、同根のように思う。
結果として、多くの犠牲を強いられ、戦果をあげた日系帰還兵たちのアメリカ市民
としての権利回復、獲得運動の中に、市民・公民権運動の原点があるように思う。



09-05-17追加
『評伝 八島太郎―泣こよっか ひっ翔べ』
南日本新聞社
定価―1500円+税

2015年04月20日追加


岡田邦雄様
メール有難うございました。一昨日奥様との電話で渡辺さんの突然の死を
知らされ、昨日、今日と、まだショックの中にいます。水曜日の夜には講演
を行い、参加者と楽しく会食を終えて自宅にお帰りになられたそうですが、
木曜日の朝に頭痛を訴え、その後、救急車で近くのロングビーチ・メモリアル
病院に担ぎ込まれたものの、すぐに脳死状態となり、死亡なさったそうです。

葬儀は家族葬として明後日(こちら時間の火曜日4月21日)にリトルトーキョー
の葬儀社で行われるそうです。奥様やお嬢様が落ち着かれた後、私達友人
で渡辺さんを偲ぶ会を行いたいと考えています。生前多くの人々に愛されて
いた彼なので、きっと多くの人が集まるだろうと思います。
長年の願いであった長澤鼎の物語を出版し、彼なりの人生の達成感は
おありのようでしたが、私共としては出来ればもっと生きて、せめて後一冊か
二冊は出版して欲しいと望んでいただけに、実に惜しい思いです。また近い
内に一緒に食事をしながら歓談を楽しもうと話していた矢先でした。

鶴亀彰