■ 三宅千代著 『夕映えの雲』(上)(中)(下) ■


角川書店/平成8年6月/初版発刊第16回/新実南吉文学賞受賞

2015-01-19


上巻 伊藤桂一(批評・序文より) 『夕映えの雲』は、自伝的な作品で、田村夫妻の愛の軌跡を描いている。(中略)泰三のレイテ戦の体験に触れる部分はこれが女性の筆になるものか、と驚かされるほど、ゆたかな実感に裏付けられ、悲壮な迫力に満ちている。

中巻 清水信(批評・巻末「鑑賞」より) 戦記としても秀逸で、本書での白眉の部分だが、作者の無私の精神が徹っているからだろう。ダナオ湖周辺のジャングルで遭遇した幻影の女身は、虚実を超えた夫婦愛の象徴として、戦後永く、このカップルの胸中を漂い、この作品を最も美しく支えてもいるイメージとなっている。

下巻 前田透 (批評・跋より) 全滅のレイテ戦線から奇蹟の生還を果たした夫の戦後闘病を守って、ひたむきに生き抜いた一人の女性の果敢な行路。愛と病苦に包まれる日を重ねて、夫の死の直前に新病院の建設を成しとげるという叙述は、堅固な筆致の中に、歌人のみずみずしい抒情をたたえて、みごとな成功に導いている。

渡久地政司 雑感
ここ40〜50年くらいの間、著者を4年位前に取材したこと、夫である医師とは1度結婚披露宴であいさつを聞いたこと、そして、本書の登場人物の母(1〜2度)娘(数度)にもお会いしたことがある。プラスして、この間、登場人物に関して、10数のエピソードを聞いていた、それだけの縁にしかすぎない。それだけなら、本書を丁寧に読まない。
わたしは今、豊田市と豊田市出身の人々を調査しているのだが、一番調べてよかったと思える人物が著者三宅千代さんであった。そして、ひょっとしたら、高齢の彼女を取材した最後の人物であったのかもしれない。

「本書」にでてくる地名は、名古屋市、岐阜県、東京、中国大陸、フィリピン・レイテ島などであるが、全3巻随所に出てくるのが小原村(豊田市)である。著者三宅千代が5才まで育ち、戦中戦後この地で百姓をやりながら子育てをし、この地で最愛の兄を結核で亡くし、人生で困難に遭遇するたびに、ここを精神のふるさと・「夕映えの雲」として思いえがき、勇気づけられたに違いない。小原の里山、草花、小川、土などの自然描写は、歌人ならではのきちんとしたもの。

豊田市立中央図書館蔵書調べ  
三宅千代
○ かぜがこじれた!おかあさん油断禁物ですよ!
○ 主婦の創作選集 1984東海編
○ 昭和16年を語る
○ 短歌研究
○ のこりて字あり  三宅寅三/共著

豊田市立中央図書館にどうして三宅千代さん関係の著作が少ないのだろう。『夕映えの雲』全3巻 近日中に寄贈しておきます。
なお、蛇足ながら付け加えますと、本書の登場人物の大半は名古屋市の「杉田眼科」と「三宅眼科」の方々です。