■ 市民派選挙を分析
H 市民派選挙考 ■

U 市議会議員として H 市民派選挙運動

「地域闘争誌掲載」

青山いつ子さんへの手紙・こんどこそ当選を!

豊田市雑文録
  こんどこそ当選を!
青山いつ子さんへの手紙

青山いつ子、主婦、39歳。愛知県岡崎市在住の市民派の運動者。4年前の岡崎市議会議員選挙に立候補し、惨敗。今秋の市議選に再度の立候補を予定。
『月刊 地域闘争誌』1984年5月号掲載
青山さん、今秋の岡崎市議選では、こんどこそ当選してください。そのために留意してほしいことを3点書いておきます。この3点をきちんと認識することが選挙運動をやり易くし、運動員も自分が何をやっているのか、がわかるからです。言い換えれば、市民派選挙のイロハです。
革命運動と市民運動の違い

ひとつは、革命運動と市民運動の違いをきちんと知っておくことです。青山さんの周辺の主婦に党派嫌いの方がおります。この党派のどこがどうして嫌いなのか、をはっきり知っておくことは、逆に市民運動とは何か、もはっきりします。また、短期的にせよ、選挙運動には組織を結成し、その組織を効率よく機能させなければなりません。即ち、組織と個人、時間、有権者名簿等を的確に管理し、効率よく回転させなければなりません。このことは、管理されることの嫌いな人から、「党派的だ」と糾弾されます。間違うと、選挙運動の機能が弱まり、組織崩壊・空中分解となってしまいます。
 これらのことを考えるために表をつくってみました。京大の河合隼雄先生の「父性・母性原理」の区分の手法を誤解して借用、私が作成したものです。

 
この表について、次に簡単にまとめておきます。

 1 現実に存在する形態としては、組織を純化しきったものから、らしからぬものまで幅があります。また、革命派が利用対象として市民運動に潜入したり、逆に市民派が市民運動をとおして革命運動にもかかわることもあります。
2 大切なことは、革命派と市民派の好き、嫌いは個人の感性の問題ですが、 どちらの組織が正しく、また間違っていると決めることができないのです。それぞれが正誤と、あいまいさと多くの問題を抱えて、存在しているのです。
3 とくに、市民運動をおこなう場 合、自分の正誤とあいまいさ等を認識したうえで、他の存在を認め、共存共生の立場から運動をおこなうのですから、革命派や他を排除することをしてはいけません。ですが、党派間の争いや党派の論理を知らずに、善意と無知で係りますとひどい目にあうことがあります。党派の論理をよく知ったうえで、係るか、避けるかを決めることです。
4 また、市民派内では、多数決原 理で強制することは、さけなければなりません。
5 表には出てきませんが、ヨーロ ッパの近代市民精神の思想に依拠しておこなうのが「市民運動」である、とする考えがあります。ヨーロッパ近代思想、精神、哲学は、自己や我の確立によって、あいまいさを取り除き、厳しく他との峻別をおこなうことによって、近代科学の基礎をつくりました。ただ、現代日本の市民運動の多くは、ヨーロッパ近代市民精神を前面的に肯定するのではなく、むしろ、その反省という側面を持っているように(私は)思っています。私は、ヨーロッパ型の市民運動と「日本型市民運動」は一応、分けておいた方がよいと思っています。
  6 市民派選挙運動の主体となる核について考えてみましょう。その核は、短期的にせよ、父性原理を持った強固な集団が必要です。
 保守派から支援を得るために
 二つ目は、革新の旗幟を鮮明にしたうえで、保守の地盤の一角に座らせてもらう、ということについて書きます。  民衆の生きる知恵として「寄らば大樹の陰」があります。民衆のバランス感覚のヨサです。現在の力関係からしますと、自民党の傘下にいた方のほうが間違いないのです。このバランス感覚で自民党傘下に入ることを決めた民衆を、遅れている、無知と責めてはいけません。自民党の政策には、多くの誤りがありますが、強力に支持を得ていることも確かなのです。
 青山さんの住んでいる地域は、辣腕の自民党県会議員が支配している保守の金城湯池です。今秋の市議選では、この保守地域から当選に必要な票の3分の1か、2文の1をいただかねばなりません。既に、青山さんは、革新の旗幟を鮮明にしているのですから、わざわざ革新の言葉を使用せずとも地域住民は「革新の青山」をよく知っているのです。ですから、今回は、謙虚に保守地盤の一角に座らせてください、と挨拶をしてから活動することです。人種も言語も風土風習も異なる異郷で活動したヨーロッパのキリスト教宣教師のことを思えば、殺されわけではありません。保守の強力な地盤の一角に座らせてください、と頭を垂れること、このことは恥ずかしいことでも節を曲げることでもなく、あたりまえのことです。彼らから、三河弁で「お前さんの革新の考えは嫌いだけど、お前さんは人柄がええし、よくやっとくれるから応援せんとあかんねー」と支援してくださる方を、地域でまず一人獲得することが選挙運動の第一歩なのです。

 市民派選挙の組織と技術

 三つめは、市民派選挙の組織と選挙技術について、書いておきます。  市民派運動とは何か、そして、市民派の人間関係はどうあるべきか、をきちんと確認し合うことから出発します。そのうえで、候補者の青山さんが、直截に自分が立候補することが市民運動にとっていかに有効か、を確信をもつて訴えることです。この訴え、を聞いたうえで、市民派の方も、直截に主張すべきことは言い、きちんと「契約」・約束を結ぶことです。この「契約」・約束が市民派選挙運動の核心です。

 次に市民派支援者からの回答例を7つあげます。
1 一票いれます。
2 かげながら応援します。
3 献金、選挙の作業をおこないます。
4 支持者として名前を公にします。
5 1日2〜3時間、選挙運動のために使います。 6 一心同体とまでは行かなくとも、私自身のためにも頑張ります。
7 共生的一体感、必死にやるだけの価値があります。

青山さんの呼びかけに、この7例の どの指に止まってくれるのか。今、青山さんの周囲にいる方の多くは、1〜3くらいの方が多い、と思う。この方々を7まで引き上げるのが、候補者の全人格をかけての運動・勝負なのです。このことは、候補者しか味わうことのできない、「面白さ」なのです。

 次に選挙の技術について4つあげ ておきます。

1 豊明市の小松猛市議が「しな やか、しつこく、したたか市民」と言いました。市民派が市民派たる条件は、すべてここに表現されています。 目標と主張は、常に鮮明。陰謀や奸計の策をとらない。
2 誤解をおそれずに言えば、公 選法は知らないほうがよいのです。なぜなら、市民派の選挙は、金ない、組織ないのですから、悪質な選挙違反を行なおうにもできないのです。知らずに犯した違反は、警告されれば直せばよいのです。
 どのような心境で行えばいいか。例えば、国道1号線のド真ん中を老婆が乳母車を押してゆっくり信号を無視して横断するとします。この場合、運転手も「そこのけ、そこのけ」と警笛を鳴らせません。選挙運動は、乳母車を押す老婆の心境で行うことです。 警察を甘くみてはいけませんが、このような場合、老婆に警告をしつつ、安全な方に誘導するはずです。
3 市民派選挙運動では、「司令 部」を強化しないほうがよい。選挙では、俗に「選挙参謀」と呼ばれる人、グループがいるのですが、これが「司令部」です。この「司令部」が強化されますと、情報と仕事が「司令部」に集中してしまいます。肝心な仕事をしなければならない人物が、この情報と仕事に忙殺されるおそれがあります。
 どうしたらよいか。選挙事務と運動を徹底的に分業してしまう。分業した雑用は、岡崎市外からの支援者が行う。岡崎市在住者は、岡崎市民でしかできないこと、即ち「有権者に投票を依頼する」ことに専念する。仕事の「交通整理」・分担のための全体会議は必要です。
4 最後に候補者が担わねばなら ない大切なことを書きます。
 マツクス・ウェーバの名著「職業と政治」にある有名な指摘ですが、〈政治や行政を担う人は、プロフェショナルでなければならない〉、という言葉です。透徹した頭脳による判断、冷静沈着な行動、気配り、効率のよい仕事の処理と決断。また、血わき肉踊る歓喜へと誘導する演出力。この二つの側面を、地方選挙では候補者が担なわなければなりません。こんなことを書きますと、そんな鉄人みたいなことは、私にはできない、と心配になることでしょう。だが、心配することはありません。候補者がその気になってまず行動を起こすことです。不思議なもので、候補者がその気になって一生懸命に訴え、行動を起こしておれば、いろんな能力を持った方々が、突然登場してきて、驚くようなエネルギーを発揮してくださるのです。
 青山さん今度こそ当選を!