■ 芸妓接待は違法判決勝ち取る ■

2008年3月掲載


渡久地政司

 

国家公務員への違法供応・接待を中止させた

   2008年3月  (掲載にあたって)
1963年4月、市議会議員に当選した直後、最初に狙いをつけたのが、議員特権ともいえる公費での飲み食いを摘発し中止させることであった。これは、渥美の作家・杉浦明平さんと町議・清田和夫氏らの活躍を参考にした。
1963年5月、議長招宴の宴会を摘発、一切の宴会をボイコットし、公費宴会を中止させた。9月の決算精査において、食料費と交際費を徹底的に調べ、メモにした。そこには、大蔵省、会計検査院、建設省、農林省などの役人への供応、接待が正直に記載されていた。「悪いこと」の意識がまったく、ある国家公務員は、全額豊田市費でゴルフ場と芸妓付き宴会、宿泊をおこなっていた。1966年、豊田市監査委員会に監査請求を行い、1967年、国家公務員への違法もてなし事件として名古屋地方裁判所に提訴、1971年12月に判決があった。その後、名古屋高等裁判所→最高裁判所まで闘いを続けたが、名古屋地裁判決の「小さな勝利」以外は、国家権力の厚い壁を崩すことはできなかった。
豊田市・市議会では、食料費の項目が消え、需用費となり、体制側なりの隠蔽をはかった。公費による宴会、飲み食いを公然と行うことが憚れる意識を生み、自粛がなされたことは確かである。わたしが在職していた1987年まで、公費の宴会が公然とおこなわれることはなくなった。
近年、岐阜県庁や名古屋市役所内でのヤミ預金が発覚して大騒ぎになっているが、これら腐敗の「根っこ」は、みな公務員の「特権意識」といえる。住民・市民の監視されないソヴエット・中国の「社会主義」がダメになった原因は、理論にあったというより「特権意識・腐敗」にあった、と思う。
40年余も昔の古い資料だが、今も今後も新しい問題なので掲載することにした。(渡久地 政司)
芸妓花代・宿泊費は違法
 
食料費裁判部分勝訴
1972年1月5日 『月刊市政研』第88号から抜粋

1972年(昭和47)12月24日、名古屋地方裁判所において、わたし(渡久地政司)がおこしていた「豊田市長の国家公務員への食料費違法支出裁判」の判決があった。判決は、芸妓による接待など豊田市が芸妓による接待など全く非常識なことをおこなっている点は違法と認めた。このことは意義をもつているが、その他の点でいくつかの問題があるので更に控訴して追及することとした。

この訴訟をおこした目的
1 地方へ出張してくる国家公務員は、旅費・宿泊費等の出張費を国から支給されており、地方自治体が彼らに食料費などを支出して供応することは、明らかに市民の血税の無駄使いであり、違法であることをはっきりさせること。
2 もし、地方自治体が国家公務員にへつらって自治体の円滑な運営ができるという現在の慣行が黙認されてしまうならば、自治体の国への従属がますます進行して、地方自治体の健全な発展は不可能になってしまうので、法的レベルでもこれにはっきりと歯止めを打ち込んでおく必要がある。

判決の要旨

このようなわたしの態度に対して、裁判所が下した判断の論理は大体次ぎのようなものだった。
(1) まず1万円以下の支出については、「豊田市処務規程」で助役、総務部長が決裁権を持っているから市長に責任はない。
(2) 1万円を越える金額についても、支出の用途や方法は原則として市長の自由裁量権に任されるべきである。ただ芸妓の花代や宿泊費等の態様による供応は、社会通念上の儀礼の範囲を逸脱したものであって違法である。

 この判決についてのわたしの考え

 勝ち取ったもの

 まず、芸妓の花代、宿泊費等の支出が違法と判断されたことは、一応の成果であった。従来、わが国では政治的な接待に芸妓が出るということは公然の秘密みたいになっていたし、現在でも全国各地の地方自治体でおこなわれていることである。このことに対して、裁判所がはっきりと、「社会通念を逸脱した違法な行為である」と判断したことは、大きな前進だと言える。
 しかし、わたしの訴訟の目的からすれば、この判決はまだまだ不十分な点がある。そのことを判決の論理で明らかにしたい。

最終責任はあくまで市長に

○ 判決要旨 (1) について
裁判所が、助役・総務部長に決裁権があると判断した根拠となった「処務規程」は、市長の責任において公布されたものであり、従って1万円以下の支出についても最終的な責任は当然市長にあると考えるべきです。もし、市長の責任が全く問われないとするならば、1万円を超える支出についても、各部の食料費や交際費に分散させて支出して個々の項目を1万円以下にしてしまえば、市民としては市長の責任を追及することができなくなる。これでは裁判所が市長の責任逃れの方法を教えたことになると言っても過言ではない。

ゴルフ場のビールは適法か

○ 判決 (2)  について

 裁判所は違法か適法かの判断を、供応が社会通念の範囲内か否かで行っているが、その社会通念の内容について何ら明らかにしていない。ですから、市民から見れば非常識に思われる、ゴルフ場へ連れて行って飲み食いさせることが、どうして社会通念の範囲内と言えるのかわかりませんし、逆に言えば、違法とされた芸妓の花代がどうして社会通念の範囲外と言えるのかについても、この判決は論理的には全く触れていないことになります。
 わたしは、出張費を支給されて自分の仕事のために来豊する国家公務員に対しては、お茶とお菓子の程度を超える支出は1円たりともすべきではないと思いますが、正直なところ、この種の行政訴訟の社会的影響の大きさや日本の裁判所の行政権力に対する弱さから考えて、裁判所がわたしと同じ判断をすることまでは期待していません。けれども、裁判所が社会通念の内容を明らかにせず、芸妓の花代、宿泊費だけを問題としたことは、その反面として、ゴルフ場での飲み食いは適法であることを認めたことになる。わたしは、この市民感情と全くかけ離れた判決をそのまま受け入れることはできない。芸妓の花代、宿泊費についで、ゴルフ場でのビールも違法だという判決を得るまで控訴して闘う。